なぜ自閉症の子は空気が読めないと言われるのか? 〜誤信念課題の研究から〜

自閉症の研究
自閉症の人には主に3つの特徴があります。
- 社会性、コミュニケーションの障害
- こだわり行動
- 感覚の過敏・鈍麻
これに加えて、社会的に困難がある状態であれば自閉症と診断されます。
特に「社会性コミュニケーション能力の障害」は
- 空気が読めない
- 気持ちを察してくれない
- 全部説明しないと理解してくれない
と、社会生活において不利に働くことが多いです。
近年、発達障害の情報が広まり、認知が高まってきました。
しかし、現状はまだまだ正しく理解されていない場合がほとんどです。
空気が読めない?
自閉症の人は「空気が読めない」と言われることがあります。
研究で他人の行動の意味を考えたり、予測したりする能力の発達が遅いことが示されており、
「他者理解の能力障害」
と考えられています。
このように書くと「他人の心が理解できず、空気が読めない人」と誤解するかもしれませんが、実際は、
- 雰囲気を察して行動する
- 泣いている子を心配する
など空気を読んで行動できる子はたくさんいます。
ただ自閉症ではない人と同じレベルで空気を読むことが苦手なだけです。
言葉で簡単に表してしまうと、誤解を与えてしまうので注意が必要です。
◆サリーとアンの課題
他者理解の能力を測る方法に「サリーとアンの課題」があります。
(参照:「サリーとアンの課題」)
サリーは隠したことを知らないので、カゴから取り出そうとするはずです。
なので答えは「カゴ」となるのですが、自閉症の子は頭の中でサリーの立場になって考えた時、どう行動するのか?ということが理解できないため、間違ってしまうという問題です。
これは自閉症の人はわからない、というわけではなく一定の発達年齢になれば「サリーとアンの課題」や類似の問題も解けることがわかっています。
自閉症=人の心がわからない
ではなく、単に他者理解の能力の成長が人より遅いことが多いというだけの話です。
◆どうして空気が読めないのか?
「サリーとアンの課題」のような他者理解の力の発達が遅れるのはなぜか?
この理由はいろいろな説がありますが、一つの説に自閉症の子は「他者理解の能力」を自閉症ではない子と異なった方法で理解しているという説があります。
以下は「別府・野村の誤信念課題の研究」を紹介します。
◆「別府・野村の誤信念課題の研究」
「サリーとアンの課題」を説いた子どもたちに、なぜその場所を選ぶのか理由を聞いて見ました。
(一般の子、自閉症の子ともに含む)
すると、子どもの答えには3つのパターンがありました。
- 不正解
- 正解はするが説明ができない(直観的心理化)
- 正解し説明もできる(命題的心理化)
その結果、一般の子は3つのパターンにバラバラに別れました。
一方、自閉症の子どもには1か3どちらかに偏り、2の「正解はするが説明ができない」という子がいなかったのです。
このことから、自閉症の子は「説明できないが正解できる」という状態がなく、健常児とは異なるステップで理解しているのではないかと考えられています。
◆実際に
この研究をもとに考えると、
「説明できない」=「理解できない」
という自閉症の特徴が理解できます。
人間関係のような説明が難しいものは、理解できずうまく立ち回ることができないのも納得です。
- 状況を考えなさい
- 空気を読みなさい
- 言われなくてもわかるでしょ
このような言葉がけは世の中に溢れています。
しかし、これらは子どもを成長させず、逆にパニックを引き起こしてしまうことにもつながります。
逆に考えると、保護者、教師などの支援者は、何かを始めるときは「なぜ必要なのか?」という理由を事前に説明し、納得してもらえれば自閉症の子は普通に行動できるのです。
終わりに
今回は自閉症の特性と説明の重要さを紹介しました。
しかし、「説明」は自閉症の子に限らずどんな子にも重要です。
「子どもは言うことを聞くもの」と思って行動すると、後々さらに悪化して支援者に返ってきてしまいます。
「子どもは大人として扱うことが大事」とよく言いますが、それは厳しく接するという意味ではありません。
説明し、納得してもらい、意思を尊重する
というごく当たり前の対応をする、ということです。
今回は、自閉症の研究の一部を紹介しました。
今後も少しずつ発達障害に関する情報を世の中に発信していければと思います(^ ^)
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