特別支援級の子の将来はどうなるの? 〜人生を見通して子どもの支援を考える〜

目次
特別支援級の子の進路
校内に特別支援級(以下「支援級」)が存在する学校は、今は珍しくはなくなりました。
名前は「ひまわり学級」「個別支援学級」「なかよし学級」「あすなろ学級」など、いろいろありますが、通常の学級では勉強に遅れてしまう子どものために個別に教える場所の重要性が、社会的にも当然とされてきたのは良い流れだと思います。
しかし、まだまだ支援級に抵抗のある保護者は多いです。
その理由の1つに、「将来の進学・就労」をどのように辿るか不透明なことが挙げられます。
教師は「普通の学級ではついていくのは厳しいんだから、支援級に入ればいいじゃん」と簡単に思ってしまいますが、保護者はその子の人生を見通して考えます。
- 「普通の高校・大学進学は諦めるしかないのだろうか・・・」
- 「一人で仕事をして生きていけるのだろうか・・・」
- 「私が死んだら、この子は生きていけるのだろうか・・・」
一生を通じて考えて、今どんな選択がベストなのか必死に考えています。
反対に教師は、支援級の子は卒業後どんな人生を歩むのか、どこまで知っているのでしょうか?
「卒業させたら役目は終わり」と思って関心をもたないことがほとんどかと思います。
しかし、支援級の子がどんな人生を歩んでいくのかがわかれば、目の前の子どもにどう接すればいいのか見方・考え方も変わると思います。
今回は、そんな「特別支援級の子のキャリア・人生」について紹介したいと思います。
特別支援級の子のキャリア・人生
一般の方がイメージするキャリアとは、
幼稚園→小学校→中学校→高等学校→大学→就職→定年→第2の人生
このような流れだと思います。
しかし特別支援級在籍の子は、一般の方のようには仕事が難しい背景もあるので、同じ進路をとるのは難しい子が多いです。
以下では、支援級(主に知的学級)の子どもの進路の一例を紹介します。
①就学前
- 保育士や幼稚園での子どもの様子
- 先生からの勧め
- 1歳半・3歳・5歳児健診や就学前健診
など、色々なきっかけがあり医療機関や療育センターへの受診へとつながります。
②小学校:特別支援学級・通級
(参考:コクヨHP)
特別支援学級(以下「支援級」)の知的級か自閉・情緒級に在籍し児童のレベルに合わせた授業が行われます。
また、自立活動の授業を通して将来のキャリアを生きる力を身につけていきます。
常に支援級にいるわけではなく、「一般級で授業を受けられる」と判断されれば「交流級」という形で一緒に授業を受ける機会もあります。
そのほか、もし一般級でも在籍可能と判断されれば「措置変更」という制度によって、一般級へ転籍することもあります。
支援級の子の多くは、中学校の支援級に進学します。
または国立の中高一貫の特別支援学校を受験し進学するケースもあります。
③中学校:特別支援学級
中学校の支援級は、小学校の支援級と制度的に大きな変更はありません。
しかし、中学校は最終的に「受験」という目標が発生することが大きな違いと言えます。
見据えるキャリアには主に3つあります。
- 一般級の子と一緒に「高校受験」
- 就職を考えた「特別支援学校高等部」
- 学びたいことを学ぶ「通信制・定時制高校」
※「就職」という道もありますが、現状では縁故採用以外の道はほぼないのが現状です。
④高校進学
特別支援学級を卒業後の進路は主な進路は
- 「特別支援学校高等部」
- 「通信制高校・定時制高校」
の2つがあります。
特別支援学校高等部
これは主に卒業後の就労を目指して通う高校になります。
カリキュラムは各学校によって異なりますが、挨拶やマナーから単純労働の訓練に加えて、企業研修やインターンなどのキャリア教育が行われます。厳しい事でも知られますが、その分就職率は高いです。
そのため、多くの生徒は特別支援学校高等部への進学を目指します。
通信制高校・定時制高校
そのほかにも発達障害や何らかの理由により、学校に通えない子には通信制高校・定時制高校への進学もあります。
今は「発達障害へのサポートの充実」をウリにした学校も多いので、選択肢の1つになっています。
(高等学校における特別支援教育の推進について(H21)をもとに作成)
特に、通信制は昔は「働きながら通う学校」という位置付けでしたが、今は発達障害を抱える子の受け皿となっています。
(参考→通信制高校の探し方ガイド)
実際に、通常学級で約6.5%と言われる発達障害を抱える子は、全日制の高校では1.8%となっています。
しかし、定時制・通信制の学校は約15%となっており、発達障害を抱える子の多くが通っていることがわかります。
問題点(地域による)
ここで問題となっていることは、学力的には一般の子と同じく受験が可能な子の進学問題です。
自閉・情緒級の子の中には勉強は苦手とはいえ受験ができる学力の子もいます。
しかし、中学校の支援級にいると成績がつかず通知表が出ません。
公立高校は「中学2年の3学期+中学3年の1、2学期」の内申が指標となります。(3学期制の場合)
そのため支援級に在籍すると受験資格を得ることができないという自治体があります。
もちろん、地域によっては可能な自治体もありますが、所属する自治体によって子どもの将来が狭められる可能性がある、というのが今の現状です。
その結果、保護者が支援級への入級を拒否したりするケースがあります。
また、成績をつけるために一時的に一般級に戻すなどの取り組みが行われたりしています。
そのほかにも、特別支援学校高等部では「高校卒業資格」が得られないため、将来の進路が大幅に狭まってしまうという現実もあり制度の改善が望まれています。
インクルーシブ教育実践推進校
インクルーシブの理念に基づいて、障害のある子も一緒に学ぶ「インクルーシブ教育実践推進校」を設置する自治体も出てきています。
神奈川県では、知的障害の子が受験可能な一般の高校が3校あります。
各校では知的障害がある子も教室で一緒に勉強し、同時にキャリア教育などの特別授業も行うことで、就職へのサポートを行うとのことです。2020年には11校増え、計14校インクルーシブ教育推進校ができます。
これは神奈川県の取り組みですが、支援級の子どもにとって新たな進学の選択肢になることでしょう。
類似の取り組みもそれぞれの自治体で実施されていると思いますので、今後広まっていくものと考えられます。
⑤企業就労と福祉就労
支援級に在籍していた子は、高校を卒業すると多くの場合就職しますが、主に2つの道があります。
1つは「一般企業への就職」もう一つは「福祉就労」です。
一般企業への就職
一般企業に就職する場合は、一般の人と同じ条件で就職することになります。
今は、企業の発達障害への理解も進んでおり、合理的配慮などが受けやすい職場が増えています。
一方、一般の人と同じ条件で働くことに負担を感じてしまったり、就職後に職場の配慮が少なく続けられなくなる人もいるのが現状です。
一般企業の障害者枠での就職
一般企業には障害者雇用促進法によって2.2%の障害者雇用が義務付けられています。
(国・地方公共団体2.5%、都道府県の教育委員会2.4%)
特別支援学校高等部と一般企業とのパイプも強いため障害者枠での就職率は高くなっています。
(文科省HP)
福祉就労:就労移行支援
就職が叶わなかった場合でも、一般企業での就職を目指す場合は就労移行支援というサービスがあります。
利用期間は2年間で、原則賃金はありません。
(詳細:https://snabi.jp/article/2)
福祉就労:就労継続支援A型・B型
雇用が困難な場合、就労継続支援というサービスがあります。
就労の機会を提供すると共に、生産活動や様々な活動を提供し就職に必要な訓練を行う制度です。
- 雇用契約を結ぶA型(月収約7万円)
- 雇用契約を結ばないB型(月収約1万5円)
上記2つの制度があります。
(詳細:http://www.s-agata.com/category10/)
多くの場合、一般企業への就職を希望しますが景気の波にも左右されます。
もし就職できなかっや場合は、賃金のある就労継続支援を希望することが一般的です。
しかし、一般企業と比較してやはり賃金には差が生まれます。(上記画像参照)
よって、障害者年金などを合わせて利用するケースが多いです。
⑥グループホーム
仕事をしている間は、両親家族の元で、あるいは結婚をしてお子さんがいる場合なども家族と共に一生を過ごしていきます。
しかし、両親が先に亡くなり、単身者となったときはグループホームと呼ばれる施設に入ります。
グループホームとは病気や障害などで生活に困難を抱えた人が、一般の住宅で少人数で生活する制度です。
専門のスタッフもおり、シェアハウスをイメージするとわかりやすいかもしれません。
ここで地域社会に根付き生涯を過ごしていきます。
(参照:みんなの介護)
終わりに
以上、簡単ですが支援級を卒業した後の子どもたちのキャリア・人生をまとめてみました。
困難を抱えた保護者は、生涯にわたるキャリアを考えています。
一方、支援級の先生は目の前の子どもへの対応に精一杯になり、どうしても将来を見越した指導が難しくなる現状があります。(もちろん将来の道を把握・理解し対応している先生もたくさんいます)
そんな環境ですが、少しでもキャリア・人生を知っておくことで子どもへの接し方も変わっていくことと思います。
参考になれば幸いです。
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